忘れた

テレビでふと、戸田恵梨香主演のドラマを目にした。内容はよくわからないが、若年性アルツハイマーの女性が主役のドラマだ。

将来アルツハイマーになるんだろうなーと冗談交じりに言った。もうなってるようなものか、とも付け加えた。実際本当に物忘れがひどく、10秒前のことでも忘れていることが度々ある。脳の病気とかだったら怖いな、と思う。バイトでも色んなことを忘れて、よく客や先輩に叱られることがある。これでは社会人になったら大変だろうなあと漠然と思う。それでも、社会人になってもこの健忘は変わらないような気がする。

全てを忘れてしまう病気になることを想像した。恋人の名前すら覚えていられない病気。恐ろしいな、と漠然と思う。というより、それしか思うことができない。あまりに未知の世界すぎて、現実感がまるでない。でも、それが訪れない世界が存在する確率の方が少ないかもしれない。自分には今すぐに忘れたい黒歴史や、苦い思い出が山ほどあるし、そんな思い出ほどなかなか消えずに、たまにひょんなことから、まるで池に石を投げた時に底に沈殿していた土がふわっと舞い上がるように、黒歴史が記憶の底から浮き上がることがある。その度に僕は身悶えしたり、頭を抱えたり、眠れなくなったりする。

だが、そんな忘れたい黒歴史と同じくらい、忘れたくない思い出もたくさんある。彼女の家からの帰り道に下り坂で見た夕焼け、どこまでも果てしない誰もいない砂浜、みんなで見た満点の星空。流れ星。それから、涙を流した音楽。君の匂い。ハンバーガーやコーラの味。顔を引きつらせて笑う口元。夜の冷たい風。お酒の火照り。思えば僕はもう20年以上もの間何百人もの人と付き合い、話したり、時には手を握ったり、肩を組んだりしてきたのだ。そりゃ、思い出も増える。当たり前だ。いつか見た夏の海も、冬の星も消えてしまうだろう。なくなってしまうだろう。でも、多分僕が覚えていればそれでいいと思うし、忘れたくはないが、忘れても思い出せればそれでいいと思う。景色を忘れても、大切な人がいたってことさえ覚えていればそれでいいと思う。それでも、僕が君たちを忘れてしまったら、その時はまた、忘れたくないと思えるような思い出を作りに行こう。夏の海も、冬の星も、誰かの名前も、なにかを忘れてしまってもいいから、どうか僕がなにかを愛することは忘れませんように。

 

 

 

 

 

いつか全て忘れた頃、無くした頃

あなたと居た あなたと見た

半径1メートルの世界だけはもう

譲れはできないなって 

そう思えるから

今日も生きれたんだ

 

 

2018年 10月26日投稿)